第2章 第1節

第2章 ソビエト学校における生徒の自治

 第1節 組織的習熟と集団的作業

 1917年11月、ロシアでは、いわゆる「十月社会主義大革命」が勝利し、これ以降、社会主義建設が現実の課題となった。社会主義を建設するということは、たんに労働生産性を高めること、経済を高めることを意味するばかりではなく、全社会的仕組を新しく組織し直し、新しい社会制度を創り出すこと、人間相互の間に新しい関係を生み出すことを意味しているのである。したがって、社会の組織化ということが、社会主義社会を建設していく上で不可欠なことであった。ところが、古いロシアでは、個人主義的な生活原理:「各人は自分のために、神のみが万人のために」ということわざに代表されるような生活原理、が支配的であり、絶対的でさえあった。それだからこそ、成人住民と特に若い世代を社会主義の精神で教育することは殊に重要な意味を持っていた。その社会主義の精神とは、いうまでもなく、「ひとりは万人のために、万人はひとりのために」であった。

 このように、学校教育が、社会主義ロシアを建設する上で果たす役割は大きなものとみなされていた。それでは、社会主義ロシアの建設に向けて、ソビエトの学校では、どのような目的がたてられていたのであろうか。クルプスカヤも参加して作成された1923年発表の「国家学術会議教育科学部の自治にかんするテーゼ」から、その部分を拾ってみよう。

「4 われわれの学校の目的は、楽天的で、健康で、労働能力があり、社会的本能が浸みこんでおり、組織的習熟をそなえており、自然と社会とのなかでの自分の位置を理解しており、当面の出来事を解明することのできる、社会の有用な成員を ─ 労働者階級の理想のための頑強な闘士、共産主義社会のたくみな建設者を、育成することである。」(注19)

(注19)前掲書、「学校の組織的・教育的影響」134ページ

 このようにたてられたソビエト学校の目的の中に、筆者は、組織者の育成という側面を読み取るのであるが、それは、ここでは「組織的習熟」という言葉で表現されている。この組織的習熟は、クルプスカヤには、社会の組織化という社会主義社会の建設にとって不可欠な課題を遂行しうる習熟として理解されている。

 クルプスカヤは、古い学校では、どのように組織的習熟の発達が抑えられていたかについて、次のように書いている。

「古い学校における学校課業と学校生活との組織は、子どもが身につけている組織的習熟をどのようなものにたいしてであれ適用する機会をあたえなかった。」(注20)

「学習の学校では、生徒の活動は教師が話すことをよく聞いて、おぼえることでしかなかった。…(省略筆者)…組織することを学ぶといったことは、子どもにはなんの意味もないことであった。」(注21)

(注20)クルプスカヤ「学校自治と労働の組織化」(1923年)『選集、1巻』75ページ

(注21)同76ページ

 このような古い学校に対して、ソビエト学校では、「学校自治のもっとも重要な機能の一つ」(注22)として、組織的習熟を発達させることが掲げられていた。それでは、どのような自治的活動が組織的習熟を発達させるとクルプスカヤは考えていたのであろうか。それは、自治的活動としての集団的作業である。

(注22)同73ページ

 この集団的作業という考え方は、古いブルジョア学校とは相容れないものであった。ブルジョア学校では、生徒たちは、たがいに助け合うことは禁止されており、ひとりで仕事をすることが原則とされていた。クルプスカヤは、この状況を次のように描写している。

「典型的な古い学校は生徒たちを、たがいに援助しあわないように、着席させておこうと努力した。ある子どもが、ほかのものが問題を解くのを助けたり、かれになにかを説明してやったりなどしたら、古い学校は憤慨した。」(注23)

「(古いブルジョア学校では)(注24)だれでも自分自身のために勉強し、自分自身に責任を負うのであって、ほかの人のことなど生徒には問題でなかったのです。たがいに助けあうことは子どもたちに禁じられてさえいて、つとめて子どもたちを分裂させようとされていました。評点がつけられて、各人の仕事が個々ばらばらに評価され、たえず聞かされる教訓は、学校ではだれでも自分にたいして責任を負うべきであるというのでした。そこで、集団的、共同的な仕事は、いっさいなかったのです。…(省略筆者、以下同じ)…なにかの授業を2、3人の生徒がいっしょに、共同して準備し、たがいに助けあうというのでは、なかったのです。……以前の古い学校では、こうした相互援助が禁じられていました。……子どもたちは、はなればなれに仕事をすることを、学校で教えこまれたのでした。」(注25)

(注23)クルプスカヤ「ピオネール運動の当面の課題によせて」(1925年)『選集、1巻』106ページ

(注24)筆者補足

(注25)クルプスカヤ「学校における集団的作業」(1927年)『選集、1巻』115〜116ページ

 これに対して、ソビエト学校では、生徒たちが一緒に仕事をすること、共同して学習し、たがいに助け合うことを教えるように努めた。クルプスカヤの言葉を借りて言い換えれば、「もしなにかを作るとすると、……ひとりでしてはならないのであって、みんなのあいだで労働をわけあい、各自が自分の力に応じた作業をえらび、みんながいっしょに仕事をしなくてはならない」(注26)とされたのである。

(注26)同116ページ

 このように、ソビエト学校では、作業を集団的に行うことが重視され、それを通して組織的習熟を形成し、集団主義者 ─ あらゆる問題を全体の観点からとりあつかうことができ、集団的に作業し生活すること、すべてのことにおいてたがいに協力することのできる人間(注27) ─ の育成をねらったのである。それでは、集団的な作業は、生徒の自治活動の中のどのような場で組織されていくのであろうか。これについては、次の節で触れたいと思う。

(注27)前掲書、「第二科学校における社会的 ─ 政治的教育」87ページ

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