子どもの笑顔に国境はない(13)

ベトナムの学校へ子どもたちに会いに行こう③

突然訪れた道沿いの村ごとカトリックの村 幼稚園の子どもたちが笑顔で迎えてくれました ベトナムでは3ヶ月から3歳までが託児所、その後6歳まで幼稚園に通います。

突然訪れた道沿いの村ごとカトリックの村 幼稚園の子どもたちが笑顔で迎えてくれました ベトナムでは3ヶ月から3歳までが託児所、その後6歳まで幼稚園に通います。

ベトナムの教育システムと教科書

 今回から2回に渡って、小学校の理科の教科書を中心に、教育内容そのものを具体的に見て行きたいと思いますが、その前に、少し遠回りをして、ベトナムの教育システムを教育関連法規から見てみましょう。

 ベトナムでは、小・中・高・大学が、五・四・三・四年制になっています。ですから、ベトナムの中学1年生は、日本の6年生の年齢に当たります。そして、義務教育とされているのは、初等教育の小学校だけです。このことをベトナム社会主義共和国憲法では、「初等教育は義務制であり無償で受けられるものとする。」(第59条)と書いています。中学校は義務教育ではありませんが、ディエンビエン第二小学校の卒業生は、ほぼ全員が進学しているようにお聞きしましたので、大きな都市では進学率は高いようです。中学校進学は、まだまだ義務化されていないという事情もあってか、必ずしも地元の中学校に進学していないようです。2005年に来日したディエンビエン第二小学校の子ども4人のうち3人までが、地元のディエンビエン中学校へは進学しませんでした。タインホアには、私立の学校はないと聞いていますので、公立のよりレベルの高い中学校に進学したということなのでしょう。

 中学校は授業料が有償ですから、その額がどの程度なのか関心があるところです。

 次の例は参考にならないと思いますが、筆者は、都市開発が進行中のハノイ市の発展性のある地域に新しく開校した中高学校を訪問したことがあります。この学校では、学費は1か月60万ドン、約4400円でした。この学校は、「建設会社が立てた」という話で、民立(=DÂN LẬP 個人設立の場合は私立)の学校でした。4階建ての校舎が3棟あり、ランチルームや昼寝の部屋がありました。また、さほど広くない屋内体育施設棟がありました。この学校は、民立の学校ですから、ひと月の学費が60万ドンという高い設定なのでしょう。公立の場合はこれよりずっと安いと思われます。

ハノイの都市開発区に開校した民立の中高学校

ハノイの都市開発区に開校した民立の中高学校

 ベトナムの教育は、1998年に制定された「ベトナム教育法」に基づいて行われています。そこで、次にこの教育法の記述を紹介します。

 ベトナム教育法の第2条では「教育の目標」を示し、「教育の目標はベトナム人の全面的な発達にある。」としています。この「全面発達」の理論こそ、科学的社会主義の教育の中核をなす考え方です。

 続いて第3条では「教育の性質と原理」を示し、「一.ベトナムの教育は、人民的、民族的、科学的、近代的な性格をもつ社会主義教育であり、マルクス・レーニン主義とホーチミン思想を基礎とする。二.教育活動は、学習と行動を両立する原理、すなわち、教育と生産活動の結合、理論と実践の結合、学校教育と家庭教育および社会教育の結合に基づいて実現されなければならない。」としています。これらの記述からは、科学的で弁証法的な教育観を読み取ることができます。

 これから、紹介する教科書については、第4条「求められる教育内容・方法」の三項で「教育の内容と方法は、カリキュラムに基づいて実現されなければならない。カリキュラムは教科書によって具体化されなければならない。カリキュラムや教科書は、学年や学級、教育水準ごとの目標に対応し、教育活動の安定と統一を保障するものでなければならない。」とされています。

 そして、第25条「教科書」では、「一.教科書は教育の目標と原理を体現し、教育水準、学年、学級ごとのカリキュラムに規定された教育内容・方法を具体化しなければならない。二.教科書は、学校やその他の教育機関での授業や学習において正式かつ全国統一に安定的に使用するため、国家教科書審議会の審査決定に基づき、教育訓練省によって組織化、編集、検定される。三.国は教科書の出版、印刷、発行を管理する。」と書かれています。

 以上を要約すれば、教育訓練省が全国統一に安定的に供給を保障する教科書によって、教育内容を具体的に示し、教育の原理である「学習と行動の両立」を体現させ、教育の目標である子どもたちの「全面発達」を促すことになります。

 では、いよいよその教科書の中身を具体的に見ていきましょう。

小・中学校の科学教育の教科書の構成

 日本では、「科学」と言えば、自然科学のことですが、ベトナムでは科学的社会主義の学問体系にたっているらしく、社会科学と自然科学を科学的なものと見ているようです。

 その反映か、2005年ごろまでは、小学校のすべての学年で、科学教育については「Tự nhiên và Xã hội」という教科書を使っていました。これは、「自然と社会」と言う意味です。1年生から3年生までは、一冊の中に自然分野と社会分野があり、4・5年生では分冊になっていて、一冊目が「KHOA HỘC」(科学)、二冊目が「ĐỊA LÍ VÀ LỊCH SỬ」(地理と歴史)でした。

 2006年ごろからは、4・5年生については、「自然と社会」という教科書名はなくなり、自然科学については「科学」となり、教科書名が独立しました。

 中学校では、自然科学は、物理と生物と化学の三分野が、それぞれ独立した教科書になります。このうち化学は、第8学年と第9学年(日本の中学2年生と3年生)で学習します。分野によって教科書が独立しているのが日本と比べて違うところですが、実はこれは教授する教師が違うことと関係がありそうです。ベトナム教育法によると、第64条に「教師の権利」という条文があり、「教師は次のような権利を有する。」として、第一項に「専門分野の授業を行うこと。」とあります。日本の中学校では、自然科学の先生は「理科の先生」なのですが、ベトナムでは専門分野ごとに区別されていて、「物理の先生」「生物の先生」「化学の先生」なのでしょう。

小学校一年生の教科書から「自然」

 それでは、小学校一年生の教科書「自然と社会」(2005年1月印刷発行)から、「自然」の分野の記述を見ていきましょう。

左が1年「自然と社会」の表紙  右が「自然」の分野が始まるページ

左が1年「自然と社会」の表紙  右が「自然」の分野が始まるページ

第22課 野菜

第22課 野菜

野菜はどこに植えられていますか。
野菜の根、幹、葉を指さしなさい。
あなたが知っている野菜類の名前をいくつか言いなさい。
それらの野菜類の中で、あなたはどの野菜を食べるのが好きですか。
野菜を食べるとよいことを言いなさい。
遊戯「この野菜なあに?」

第23課 花

30048-49

花はどこに植えられていますか。
バラの花、葉、枝を指さしなさい。
あなたが知っている花の名前をいくつか言いなさい。
花はどんなことをするために使われていますか。
遊戯「この花なあに?」

第24課 木

30050-51

木はどこに植えられていますか。
木の根、幹、葉を指さしなさい。
あなたが知っている木の名前をいくつか言いなさい。
木のよいところを挙げなさい。

第25課 魚

30052-53

魚はどこにいますか。/魚の各部分の名前を指さしながら言いなさい。/あなたが知っている魚の名前をいくつか言いなさい。/あなたはどの魚を食べるのが好きですか。/魚を食べるとよいところを言いなさい。/魚を描きましょう。

第26課 ニワトリ

30054-55

ニワトリの各部分の名前を指さしながら言いなさい。/どちらがオンドリでどちらがメンドリかを指さしながら言いなさい。/その理由は何ですか。/何のためにニワトリを飼うのですか。
遊戯「オンドリとメンドリとひよこの鳴き声を真似ましょう。」

第27課 ネコ

30056-57

ネコの毛はどんな色ですか。/ネコの各部分の名前を指さしながら言いなさい。/何のためにネコを飼うのですか。
遊戯「ネコの動きのいくつかと鳴き声を真似ましょう。」

第28課 カ

30058-59

カはいつもどこにいますか。/カの各部
分の名前を指さしながら言いなさい。/カに刺されることによる害を挙げなさい。/人々はどんな方法でカを滅ぼしますか。/寝る時に、カに刺されないようにするために何をする必要がありますか。

第29課 植物と動物の認識

30060-61

どれが野菜、花、木なのかを指さしながら言いなさい/ あなたが知っている野菜、花、木の名前をいくつか言いなさい。/それらの活用の仕方を挙げなさい。/人に役に立つ動物の名前を指さしながら言いなさい。/人に害になる動物の名前を指さしながら言いなさい。
遊戯「この植物なあに?、この動物なあに?」

第30課 快晴、雨降り

30062-63

快晴だと分かる写真はどれですか。/雨降りだと分かる写真はどれですか。/その理由は何ですか。/快晴の日に出かける時、帽子や笠をかぶることを思い出す必要があるのはなぜですか。/濡れないために、雨の中を出かける時、何をすることを思い出す必要がありますか。
遊戯「快晴、雨降り」

第31課 実行しよう 空の観察

30064-65

空には雲が少しありますか、たくさんありますか。
雲のかたまりはどんな色をしていますか。
空と周囲の景色を絵にしましょう。

第32課 風

30066-67

風が吹いているのが分かるのはどの写真ですか。
それはなぜですか。
風が吹いてくるとどんな感じがしますか。
遊戯「かざぐるまで遊ぼう」

第33課 暑い、寒い

30068-69

暑い景色を描いているのはどの絵ですか。/寒い景色を描いているのはどの絵ですか。/どうしてそう思いますか。/暑い時や寒い時に感じることをいつくか挙げなさい。

第34課 天候

30070-71

天気はどのように変化しますか。/暑い時、寒い時、どのように服を着分けると良いのかな。
遊戯:「天候に合った服を着よう」

第35課 復習 自然

30072-73

周囲の自然の景色について話しなさい。

 以上が教科書に見る小学1年生の「自然」の分野の内容です。

 日本では、1・2年生には理科という教科がないので、現状では3年生の理科の内容と比べざるを得ないのですが、学年の違いがあるとはいえ、その分を差し引いても、大きな違いがあるように感じます。

 植物の学習でいえば、日本ではホウセンカなどを育てて、植物の体のつくりやその一生を学んだりします。動物の学習では、アオムシを観察したり育てたりして、モンシロチョウの一生を学んだり、昆虫の体のつくりを学んだりします。

 しかし、日本では、取り上げる植物や動物は、子どもたちの身近な生活とあまりつながっていないように思われます。日本でも、ベトナムのように「学習と生活の結合」という考え方を重視して教材づくりをするとしたら、別の動植物を取り上げると良いでしょう。

 例えば動物でいえば、カやゴキブリやハエなどのどこにでもいる昆虫や、ミツバチやカイコなどの人間が利用している昆虫などを取り上げると良いでしょう。植物でいえば、ワタを育てて綿をとったり、キュウリなどの野菜を育てて、実のできる様子を観察するのも良いでしょう。

 筆者は、以上見てきた1年生の「自然と社会」の教科書の「自然」の分野から、ベトナム教育法がいうところの「学習と行動の両立」という教育の原理の具現化の努力を読み取ることができるように感じました。

 次回は、小学2年生から5年生までの自然科学の教科書の内容を紹介します。

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